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連載「ちょこっとロシア 〜でっかいロシアのちっちゃな情報〜」

2021-03-09 12:30:00

ちょこっとロシア

〜でっかいロシアのちっちゃな情報〜


 

毎年恒例、名曲三昧「イマジン七夕コンサート」

2021年のテーマ「巨星ラフマニノフ」にちなんで、

ロシアにまつわるミニ記事を、

モスクワ音楽留学経験8年の筆者がお届けします。

 

 イマジン七夕コンサート
 7/7(水)19時 サントリーホール
 ラフマニノフ コンチェルト特集!
 パガニーニの主題による狂詩曲(ピアノ:酒井有彩)

 協奏曲第2番(ピアノ:岡田将)
 協奏曲第3番(ピアノ:アンリ・バルダ)
 川本貢司指揮、東京交響楽団

 ★詳細はこちら
 

【ちょこっとロシア1:Сергей Рахманинов】


セプレウ パックスマフ・・・ホブ? いえいえ、セルゲイ・ラフマニノフですね。
ロシア語の表記には「キリル文字」が用いられています。
アルファベットは独特で、お団子に串を指したような文字(英語のFに相当)や、数字の3のような文字(英語のZに相当)、Rがそっぽを向いたヤーなど、見ているだけで面白い!
 
英語表記に使われる「ラテン文字」と共通でも、読み方が違う文字もあります。
Pは英語のRに相当。
Bは英語のVに相当。
Hは英語のNに相当、などなど。
 
筆者はロシア語をある程度勉強した後に受けた英語のテストで、RをPと書き間違えて失点、悔しい思いをしました。
「このPはロシア語だとRなんですよ~」と言い訳をしても、間違いは間違いです。

〈画像〉ロシアのアルファベット


 

【ちょこっとロシア2:謎の大作曲家】

下記は作曲家名です。
ロシア人は母国語でこう呼んでいます。
誰でしょう?(記事の一番下に正解があります。)
 
ガイドン
 
ゲンデリ
 
べトゥホーヴェン
 
チーコーフスキ
 
マーレル
 
デビュシー
 
ここまで来ると、だいぶ分かりやすくなりますね。
ちなみにラフマニノフは「ラフマーニノフ」。
アクセントがある母音が伸びる程度の違いです。
 
ロシア語では欧文表記でHの頭文字をGとよみます。
筆者はモスクワでの音楽史の授業で初めて「ガイドン」と「ゲンデリ」が出てきた時、「なんだ?知らない作曲家?」と大混乱でした。
 
〈画像〉ガイドン?ゲンデリ?


★正解
ガイドン→ハイドン
ゲンデリ→ヘンデル
べトゥホーヴェン→ベートーヴェン
チーコーフスキ→チャイコフスキー
マーレル→マーラー
デビュシー→ドビュッシー

 

【ちょこっとロシア3:人気キャラクター】


言わずと知れたロシアの人気キャラクター、チェブラーシカ。
1966年にロシアの絵本作品に登場して以来、人気を集め広く知られるようになりました。
最初に見た時は、サルなの?クマなの?と思いましたが、正解は「正体不明の不思議ないきもの」。
 
南の国でオレンジのダンボールに潜り込んで、オレンジを食べている内に眠くなって寝てしまい、そのまま極寒の国ロシアに運ばれてきたという、何とも言えないお話です。
 
ラフマニノフの生涯は、チェブラーシカの登場から遡り、1873-1943年。
その頃 人気のキャラクターはいたでしょうか・・・
 
1928年にミッキーマウスがスクリーンデビューを果たしています。
映画が大好きだったと言われるラフマニノフですが、1942 年にピアニストのホロヴィッツと一緒にウォルト・ディズニー・スタジオを訪れ、映画「ミッキーのオペラ見学(The Opry House)」を観たそうです。
この映画でミッキーは、ラフマニノフ作曲「幻想的小品集〜第2曲 前奏曲 嬰ハ短調」を演奏しており、ラフマニノフがミッキーを「偉大なマエストロ」と称したエピソードが残されています。
 
〈画像〉筆者所有の白チェブラーシカ


 

【ちょこっとロシア4:鐘】

ラフマニノフ作曲 前奏曲『鐘』や、少し前の時代の作品 ムソルグスキー作曲 展覧会の絵〜キエフの大門のコラール後など、ロシア音楽では鐘のモチーフが多用されます。
 
日本で「鐘」というと、除夜の鐘のように一つの大きな鐘を厳かにゴーンとつくイメージですが、ロシアは違います。
ロシア正教会の美しい鐘の音を、皆さんお聴きになったことがありますか?
 
大小多くの、何種類もの鐘があり、それぞれの鐘の内部にぶら下がる「舌」を縄で揺らします。
人の手と足でその縄を操作して、鐘を鳴らしています。
特大の鐘は、やはり重みがあり、発音まで時間がかかり、朗々と鳴り響きます。
高音を出す小さな鐘はリズミカルに、華やかに。
それを思うと、ロシア音楽で登場する鐘のモチーフは、確かにロシア正教の鐘楼から響き伝わる鐘の音色です。
 
さて、イマジン七夕コンサート2021「巨星ラフマニノフ」では、人気のピアノ協奏曲3曲が演奏されますが、その中にも「鐘」のモチーフがでてくるでしょうか?でてこないでしょうか?
楽しみに、ご来場ください。
 
〈画像〉ロシアの鐘楼

 

【ちょこっとロシア5:お茶文化】

実は紅茶大国のロシア。
英国のアフタヌーンティーのように、紅茶と共にお菓子や軽食を摂る文化があります。
 
紅茶に合わせる代表的な甘いものは「ジャム」。
豆皿ほどの小さなお皿にジャムを取り、ティースプーンですくって、それをなめながら紅茶を飲みます。
 
日常的に楽しむ紅茶は、まずポットにザヴァルカ(濃縮茶)を作り、それをカップに少量注ぎ、沸騰したお湯で好みの濃さに調整します。
そして、淹れたての熱い紅茶を、ソーサーにこぼして、ソーサーから飲みます。これは初めて見た時、驚きました。
ソーサーから飲む飲み方は、もともとはロシアの商人階級の飲み方で、今はあまりしないという話も聞きます。
 
ちなみに最近ロシア人の間でコーヒー人気が高まっているようで、エスプレッソやドリップコーヒーなどを取り扱う新しいカフェやコーヒー専門店などがどんどんオープン、2019年には消費量が紅茶を上回ったそうです。。。
 
〈画像〉ロシア製のティーカップ


 

【ちょこっとロシア6:ピロシキ】


今日は、すみません、個人的な好みの話です。

筆者がモスクワ留学時代にホームステイしていたご家庭では、バーブシカ(おばあちゃん)が自宅で美味しい焼きピロシキを作ってくれました。


好きなピロシキの具

第1位 キャベツとゆで卵 定番の味です!

第2位 手作りりんごジャム 甘いピロシキ♥

第3位 レバー たくさん食べました。

 

ちなみにレバー料理で大好物だったのが、玉ねぎをよく炒めた後にレバーの細切りを加え、更にスメターナ(サワークリームのような乳製品)を加えて炒めたロシア代表料理。

定番の付け合せがふっくら炊いた蕎麦の実で、これがベストマッチでした。

帰国後、日本で食材を調達して作ってみたことがあるのですが、モスクワで作るのとやはり味が違いました。

 
ロシアの食文化はとても豊かです。
また食をテーマに「ちょこっとロシア」、お届けしますね。   
 
〈画像〉健康にも良い、蕎麦の実


 

【ちょこっとロシア7:黒イクラ】


日本で鮭の卵をイクラと言いますよね。
このイクラという言葉、ロシアからの外来語です。
ロシア語でイクラは、魚卵の意味で、黒イクラがキャビア、赤イクラが鮭のイクラです。
筆者のステイ先ロシア人家庭で、お祝いの食卓などで黒赤セットで並びました。
 
知識人や知識階級を意味する「インテリ」も、一見インテリジェンスやインテリジェントの省略形のように思えますが、語源はロシア語で知識階級を意味するインテリゲンツィアです。
労働の基準量を意味する「ノルマ」も語源はロシア語です。
意外と日常的に使う言葉の中にも、ロシアからの外来語があるんですね。
 
〈画像〉イクラ

 

【ちょこっとロシア8:箱根入れ子七福神人形】

ロシアの有名な民芸品マトリョーシカは、日本の入れ子人形を参考に19世紀末に作られたそうです。

箱根の名産品だった七福神の入れ子人形をロシア人が持ち帰ったことがマトリョーシカ誕生につながりました。

1900年のパリ万博で出展されたことがきっかけで注目され、今では世界的に有名なロシア土産の定番になりました。

 

様々な柄があり、伝統柄以外に、歴代大統領マトリョーシカなどの変わり種があります。

作曲家マトリョーシカは、チャイコフスキーの中からラフマニノフが出てきたりします。

 

〈画像〉マトリョーシカと米粒



 

【ちょこっとロシア9:ヴァシリエヴィチ】

 

ラフマニノフのフルネームは「セルゲイ・ヴァシリエヴィチ・ラフマニノフ」。

名前と苗字に挟まれているのが「父称」です。

 

日本人に父称は馴染みがありませんが、山田太郎さんのお父さんが一郎さんだったら「タロウ・イチローエヴィチ・ヤマダ」、妹の花子さんのフルネームは「ハナコ・イチローエヴナ・ヤマダ」、といったイメージでしょうか。

ラフマニノフのお父さんは「ヴァシリー」だったわけです。

 

イチローエヴィチとイチローエヴナの違いは、男性か女性かの違いです。ロシア語では名詞に性の区別があり、それによって形容詞や動詞の過去形、格変化等も変わります。ここを深掘ると大変なことになるので、また機会があれば。

 

さて、ロシアでは目上の方や親しくない人を呼ぶ時、名前と父称で呼びます。
ラフマニノフも「セルゲイ・ヴァシリエヴィチ」と呼ばれていたはずです。

 

親しい友人などを呼ぶ時は、名前の略称で呼びます。

「セリョージャ!」です。

 

更にロシアでは愛称も使われます。親が子供を呼ぶ時や、恋人、伴侶への呼びかけで、特に愛情を込めた言い方です。

「セリョージンカ!」

 

ドストエフスキーなどのロシア文学を読むと、同じ人物の名前が様々に出てくるので理解に苦しむことがありますが、そこにはニュアンスが込められているのですね。

 

〈画像〉セルゲイ・ヴァシリエヴィチ


 

【ちょこっとロシア10 最終回:幸運を!】

 
コンサート開演直前、演奏家が舞台袖からステージに出る時、私達裏方は「トイトイトイ」と声をかけて幸運を祈ります。

このトイトイトイ、ドイツのおまじないで、もとは魔除けの言葉だったそうです。

 

ロシアでも同様のシチュエーションで、魔除けの言葉が使われます。

 

「ニ・プーハ・ニ・ペラ!」

直訳→毛も羽もなく!=獣も鳥も獲れませんように!

意訳→幸運を!

 

これに対して、言葉をかけられた方は

 

「ク・チョルトゥ!」

直訳→悪魔のもとへ!=地獄へ落ちろ!

意訳→ありがとう!

と応えます。

 

願い事は言葉にせずに、心に隠しておく。

あえて逆のことを言って、成功をはばもうとするものを排除する。

演奏会や、試験などの本番前、お決まりの声がけです。

 

「ニ・プーハ・ニ・ペラ」は、もともと狩りに出る猟師に成功を祈ってかける言葉でした。

狩猟時代、森には成功を邪魔する悪い精霊がいるとの迷信があり、敢えてこのように罵り合うことで、悪霊に狩りを邪魔されないようにしたと言われています。

 

ということで、10回にわたる「ちょこっとロシア」、お付き合いくださりありがとうございました!

イマジン七夕コンサートが、今年も皆様に素敵なひとときをお届けできますように。

ニ・プーハ・ニ・ペラ!(幸運を!)

 

〈画像〉前回、第16回イマジン七夕コンサートのステージ写真