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2/26ニューヨーク公演のコンサート・リポート!

2017-03-10 09:37:00

2013年5月ボルドー国際弦楽四重奏コンクールの優勝を機に、
世界各地で演奏を重ねているシューマン・クァルテット。
2016年よりニューヨークのリンカーン・センター室内楽協会のレジデントも務めています。
そんな彼らが2017年2/26に出演した注目のニューヨーク公演を、現地在住の音楽ライター日比美和子さんがリポート!
 

日比美和子(音楽ライター)

 「音楽の美しさは悲しみの深さに比例する… 」最愛の姉を失い、絶望の底にいたメンデルスゾーンが、最後の力を振り絞って生み出した、痛ましくも美しい「弦楽四重奏曲 第6番 作品80」。シューマン・クァルテットはこのロマン派の傑作を、心を鷲掴みにされるような激情と天国的な美しさで描いた。
 世界各地に気鋭の若手弦楽四重奏団が乱立し、しのぎを削るこの世界で飛び抜けた存在のシューマン・クァルテット。シューマン姓を持つ三人の兄弟を中心に、2007年にケルンで結成された。国際的ソリストとして知られる日系二世のエリック・シューマン(長男)が第1ヴァイオリン、ケン・シューマン(次男)が第2ヴァイオリン、マーク・シューマン(三男)がチェロを担当。ヴィオラには、エストニア出身のリザ・ランダルが紅一点として加わる。ボルドー国際弦楽四重奏コンクール(2013年) 、シューベルト&現代音楽国際コンクール(2012年)といった難関コンクールで優勝。その後世界的に活躍の場を広げ、2016年にはニューヨークのリンカーンセンター室内楽協会のレジデントに選出され、3年に渡って同協会が開催する公演に定期的に出演する 。
 リンカーンセンターといえば、メトロポリタン・オペラ、ニューヨーク・フィルハーモニック、ニューヨーク・シティ・バレエなどの本拠地で、カーネギーホールと並ぶニューヨークにおける舞台芸術の頂点。リンカーンセンター室内楽協会は、その中でアリス・タリー・ホールを本拠地とし、 良質の室内楽公演を提供している。
 2月26日(日)の公演にも耳の肥えたニューヨークの室内楽ファンが集い、会場はドイツの気鋭の弦楽四重奏団の演奏への期待に満ちていた。 シューマン・クァルテットは、リンカーンセンター室内楽協会の今シーズンの目玉であるメンデルスゾーン特集の最終公演にレジデントの活動として出演。『メンデルスゾーンの悲しみ』というテーマで、アメリカで活躍する若手室内楽奏者によるピアノソロやピアノ三重奏とともに、弦楽四重奏でメンデルスゾーンの悲哀を描いた。 

 シューマン・クァルテットがまず演奏したのは、メンデルスゾーン作曲「弦楽四重奏のためのフーガ 作品81-4」。若き18歳のメンデルスゾーンが、尊敬するJ.S.バッハの作品を学び、書いた作品。シューマン・クァルテットの音楽の悦びに溢れた演奏は、メンデルスゾーンのフーガの持つ軽やかさや開放的な雰囲気を際立たせていた。
 メインはメンデルスゾーンが38歳という短い生涯の最期に書いた「弦楽四重奏曲 第6番 作品80」。4歳年上の姉ファニーと弟フェリックス・メンデルスゾーンは、幼い頃から双子のように、時には恋人のように互いに信頼しあっていた。その姉弟に訪れた、突然の脳卒中による姉の死。ファニーは41歳だった。最愛の姉を失ったことによる絶望、いよいよ悪化の一途を辿る自身の健康状態という危機的な状況の中で 、 自らの死を予感しながら書いた作品。初演は1847年10月、そしてその1カ月後、ファニーの後を追うように、メンデルスゾーンもこの世を去る。死因は姉と同様、脳疾患と言われている。
 第1楽章の劇的なトレモロの精緻さにまず舌を巻く。この曲のただならぬ雰囲気を印象付けると、第2主題では対照的に、穏やかで美しい想い出を回想する。再び冒頭のトレモロが登場すると、もはやこの先に続く悲劇的な運命からは逃れられないと確信させられ、悲鳴を上げながらハイスピードで駆け回る音の渦に聴き手は飲み込まれていく。第2楽章では畳みかけるアクセントが執拗に繰り返され、体全体を弾ませて生み出されるリズムに、聴き手まで思わず躍らされる。第3楽章は姉の死に捧げられた天国的な美しさを持つ「レクイエム」 。目を閉じると、30歳前後の演奏家たちによる弦楽四重奏の響きとはにわかには信じがたい音楽が聴こえてくる。細部まで徹底的に計算されたアンサンブルが生み出すハーモニーの美しさは、この曲の白眉と言えるだろう。第4楽章は、死神が嗤うトリルが断続し、その間に救いを求める悲痛な歌が挟まれている。終結部はドラマティックに展開し、第1ヴァイオリンが錯乱状態で踊り狂い、事切れる。
 シューマン・クァルテットは、三兄弟を中心に結成されたとはいえ、ひとりひとりの個性は全く異なる。それでいて、彼らが演奏するメンデルスゾーンの作品には、まるで一人で弾いているかのような統一感が存在する。幼い頃から音楽に真摯に向き合って鍛え上げられたアンサンブルの極み、楽器を極限まで生かして発せられる聴き手を包み込む豊かな響き。これぞシューマン・クァルテットを聴く喜び。
 飛び抜けた才能のエリックが牽引していた結成当初とも異なり、また2012年にリザ・ランダルが加わり中低音に厚みが加わった頃とも異なり、ソリストの資質を持つそれぞれの個性を生かしながら一糸乱れぬ統一感を備えた弦楽四重奏団へと変貌を遂げたシューマン・クァルテット。日々進化している彼らは、数ヶ月後、数年後にはさらに違う音楽を奏でるに違いない。
 リンカーンセンター室内楽協会のレジデントに選出されたことで、シューマン・クァルテットは1年に数回リンカーンセンターで演奏するだけでなく、レコーディングやラジオ&テレビ放送、教育的なアウトリーチプログラム等に参加する機会を得た。演奏も今回のように弦楽四重奏曲のみを演奏する場合もあれば、世界的に活躍する室内楽奏者たちと共演することも。ニューヨーク市民にとっては3年間、最も勢いのある弦楽四重奏団の演奏を様々な形で楽しめる幸運な機会というわけだ。
 最後に「日本ツアーで楽しみにしていることは?」と尋ねると、「日本ではいつも皆さんが熱心に聴いてくださり、あたたかく迎えられていることを感じることができます。私たちは日本とのつがなりをいつも感じています。中でも日本食は楽しみにしていることのひとつ。和食はとてもデリケートで大事に作られていますが、私たちの音楽もそのように大事に作りたいと思っています。」(エリック)
 進化し続けるシューマン・クァルテットの「いま」の味わいに期待。 
 

シューマン・クァルテット2017年日本ツアー公演情報


■6月10日(土)14:00開演  第一生命ホール(東京) 
シューマン・クァルテット【第1回】

http://www.triton-arts.net/ja/concert/2017/06/10/2317/
6月14日(水)18:45開演  宗次ホール(名古屋)
世界のカルテット∞カルテットの世界SQ.49 シューマン・クァルテット 

http://www.munetsuguhall.com/
■6月15日(木)18:45開演  アクトシティ浜松中ホール(静岡県)
2017年四季のコンサート(夏)シューマン・カルテット 

http://www6.plala.or.jp/hamatomo/
■6月16日(金)14:00開演 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール(大阪市)
http://phoenixhall.jp/performance/2017/06/16/5676/
■6月17日(土)14:00開演 第一生命ホール(東京) 
シューマン・クァルテット【第2回】
http://www.triton-arts.net/ja/concert/2017/06/17/2319/
6月18日(日)14:00開演 大仙市中仙市民会館ドンパル(秋田県)
弦楽四重奏 シューマン・クァルテット コンサート
http://www.city.daisen.akita.jp/docs/2013101100270/