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エリック・シューマンが語る、日本ツアーでの演奏曲への想い。

2017-06-08 02:30:00

いよいよ迫る!注目のシューマン・クァルテット、3年ぶりの来日ツアー。
13年ボルドー国際弦楽四重奏コンクールの優勝を機に、
世界中の名門ホールで公演を重ね、
今、若手弦楽四重奏団の中でも大注目を集めるシューマン・クァルテット。

第1ヴァイオリンは、ソリストとしてのキャリアも名高いエリック・シューマンが務めています。
クァルテットのブレーン的存在のエリック・シューマンが、
こだわりの東京2回公演での曲目について詳細に語ったロング・インタビューです!


エリック・シューマン(シューマン・クァルテット第1ヴァイオリン)
 

 ハイドンの弦楽四重奏曲「日の出」は、最も美しい曲の始まりを持っています。第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3つの楽器は温かく透明な和音を奏で、その上に第1ヴァイオリンがまるで天に上ろうとするような、ほとんど即興と言っても良いほど自由な旋律を奏でます。この時点では、この曲がどこに向かおうとしているのかはまだ明らかにはされていません。第1ヴァイオリンのモティーフは発展していき、唐突にハイドンは力強くリズミカルなパッセージを導入します。それによって、律動をほとんど感じることのできない曲の始まりとの間に、大きなコントラストを生んでいます。これはハイドンの作品の中に見いだすことが出来る多様性のほんの一例に過ぎません。
 私達はいつも彼の作品を演奏し聴くことをとても楽しんでいます。ハイドン作品は素晴らしく知的で豊かな情感を持ち、人間味やユーモアに満ちていて、しかも天才的なひらめきを感じさせてくれます。しかも、自らの天才に驕ることなく。
 第2楽章はこの作品の核心部分です。シンプルで素直で温かい和音から始まり、それがこの大きな楽章の土台を築いていきます。ここでもまたひとつの楽想が様々な変容を見せてくれます。この楽章を演奏し終わる時、私達は、短い時間の中に込められた要素の多彩さにいつも驚嘆させられます。また、全ての方向性において緻密で完璧に作曲されていること、聴く人の心の中に安らぐことのできる場所を見つけさせること、そして心の中に潜んでいる美しさや好奇心に気付かせてくれることにも。
第3楽章は生き生きとして、時に可笑しく、同時に高貴でさえある楽章です。トリオ(中間部)は、対照的に、ずっとアゴーギク(リズムやテンポを変化させること)に関して厳格に書かれています。私たちはこの楽章をいつもとても楽しんで演奏しています。なぜなら、この楽章ではステージの上でだけ生まれるインスピレーションを持っていることが必要で、演奏がうまく行く時は、まるで同僚と冗談を言い合うような感覚を得ることがあるからです。
 最後の楽章は、曲の締めくくりとしては、むしろ無邪気に始まります。最終部に向かうコーダの中で、まるで馬が加速するかのように展開していきます。F音での突然の休止は、聴く人に「この次に何が起こる?」と感じさせるでしょう。その後、純粋で陽気で幸福感に満ちたコーダが、喜びと自由を謳歌する結末に向かう道を指し示してくれます。
 私達はこの曲の自分達の演奏を振り返ることが好きです。始まりの場所、美しく移り変わって行く過程を。旅を終えて喜びと幸福感とともに家に戻って来た時のように。
 バルトークの弦楽四重奏曲第2番はずっと陰鬱な作品です。この曲は第一次世界大戦中に作曲されています。バルトーク自身にも多大な影響を与えた戦争の暗い影がこの作品に反映されていることは、特に第4楽章において、誰の目にも明らかです。最終楽章は瞑想しているように終わっていきます。そこには随所に苦しみや葛藤の跡が提示されています。痛み、苦悩そして救いのないやるせなさを手に取るように感じていただくことが出来るでしょう。この曲を演奏する度、或いは聴く度に、私たちはいつも深く揺り動かされます。私達にとってとても大切な作品なのです。それぞれの楽章に秘められた想像力、そしてそれが変化していく様は息をのむほど美しく、いつも魅了されます。私達は毎回、この作品に潜んでいる深い情感に満たされ、知識を越えた深層を発見するのです。
 ベートーヴェンの「ラズモフスキー第1番」の第1楽章は、チェロで奏される独特の美しい主題で始まります。複雑な形式をとっていますが、それでも典型的にベートーヴェンらしい、と言えるでしょう。明確なコントラスト、美しい旋律、挑戦的で演奏者に高いレヴェルを要求するリズム、典雅なアンサンブル、そして極めて洗練された人道主義的な理想。第2楽章は喜びに満ち溢れています。ベートーヴェンは何度も、あたかも曲が終わるかのように聴衆を騙そうとします。第3楽章には、これまでに書かれた中で最も美しい主題があります。それは、これ以上ないほど純真で、まるで、神か、神に近い存在との会話を思い起こさせます。第4楽章は、第1楽章と同じように、チェロによる主題の提示から始まります。主題は、ロシアの民俗音楽のスタイルで書かれています。やはりここも、喜びに満ち、生き生きとして、神聖で、そして高貴な雰囲気をたたえています。
 モーツァルトの弦楽四重奏曲第23番は、いわゆる「プロイセン王セット」の3番目の作品で、そして、モーツァルトにとって最後の弦楽四重奏曲となった作品でもあります。チェロは感情を吐露するように動きますが、これは当時としてはとても珍しいことでした。でも、「プロイセン王セット」の他の2曲でもそうですが、ここでもチェロは多くの場所で主旋律を与えられています。この曲は非常に挑戦的な作品と言えます。モーツァルトは、聴衆にとっても演奏者にとっても予期出来ない休止、突然の曲調の変化を随所に挿入しています。モーツァルトは言っています。「休止は重要で、時には音よりも重要である」、と。この曲において、冒頭ですでにそれを感じることが出来るでしょう。モーツァルトはその効果を期待しながら戯れているのです。それでも尚、この曲はモーツァルトの最上の作品と言えるでしょう。美しい旋律、天才的な展開。モーツァルトのオペラや交響曲もそうですが、この名作の中では、より凝縮された形で見出すことができます。
 武満徹の「ランドスケープ」は、全く別の音楽体験をもたらしてくれるでしょう。曲は極端な、突然のディーナミク(音の強弱)と雰囲気の変化によって成り立っています。武満は、全曲を通して完全にヴィブラートなしで演奏することを要求しています。この曲は、演奏者と聴衆の間の距離感から着想を得た珍しい音楽作品と言えるでしょう。この曲は、私たちに日本の古いおとぎ話や絵画を思い起こさせます。武満が、周文の「四季山水図」から影響を受けたことがあるのかどうか、私は知りません。ただ聴衆の誰もが、この曲が終わる時に、幼い頃に聞いたおとぎ話を思い出す時の感覚や、「四季山水画」をみる時に得た感覚と同じものを感じるでしょう。
 ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番は、弦楽四重奏のために書かれた全ての曲の中でもとても好きな曲です。とても豊かで深淵、同時に軽快で活力に満ち、魅力に溢れています。「カヴァティーナ」は最高に美しく、その美しさを描写する言葉はありません。この世界の美しさへのオマージュとさえいえるのではないかと思います。この世界の生きとし生ける全ての創造物の美しさ、我々はそれを、ベートーヴェンの音楽を通して感じることができる特権を与えられているのです。生きていること、そしてそれを全ての瞬間に感じていること、それが最も大切なことなのです。それはまさに弦楽四重奏曲を演奏することの喜びでもあります。作曲家と演奏家と聴衆をつなぐ、真に親密な絆を築く、という喜びです。
 皆様が私達と一緒に、これらの多彩な名作たちの世界をめぐる旅を楽しんでくださることを祈っています! 
         エリック・シューマン 

シューマン・クァルテット2017年日本ツアー公演情報

■6月10日(土)14:00開演  第一生命ホール(東京) 
シューマン・クァルテット【第1回】
http://www.triton-arts.net/ja/concert/2017/06/10/2317/
■6月14日(水)18:45開演  宗次ホール(名古屋)
世界のカルテット∞カルテットの世界SQ.49 シューマン・クァルテット 
http://www.munetsuguhall.com/
■6月15日(木)18:45開演  アクトシティ浜松中ホール(静岡県)
2017年四季のコンサート(夏)シューマン・カルテット 
http://www6.plala.or.jp/hamatomo/
■6月16日(金)14:00開演 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール(大阪市)
http://phoenixhall.jp/performance/2017/06/16/5676/
■6月17日(土)14:00開演 第一生命ホール(東京) 
シューマン・クァルテット【第2回】
http://www.triton-arts.net/ja/concert/2017/06/17/2319/
■6月18日(日)14:00開演 大仙市中仙市民会館ドンパル(秋田県)
弦楽四重奏 シューマン・クァルテット コンサート
http://www.city.daisen.akita.jp/docs/2013101100270/